従来のw116に比べ車体の幅が5cmも小さくなり重量も約150kg減量し登場した。オイルショック後の時代背景もあり、少エネルギーと環境保護を重点 に開発された。下記に述べる全ての装備、設計、デザイン等、この時代のメルセデスは開発に膨大な年月と人員と知恵を出しており、全てにおいてなぜこのよう な形になったか、『最善か、無か。』の標語の通り安全上や性能上の理由が全てあるという(良い意味で)ドイツ人のクラフトマンシップ全開でまさにメルセデスの技術は世界一だった黄金時代の車両である。
バンパーはそれまで主流だったアイアンのダブルバンパーを廃し、初の樹脂製バンパー(特殊ポリウレタン製)に変更され、ボディサイドにはサッコプ レートと呼ばれるサイドプロテクターが装備された。この「サッコ」とは、当時のデザイナー、ブルーノ・サッコの名前から来ている。
ボディデザインは前後端を絞り、車体全体も低くスタイリッシュなものにしている。空気抵抗は旧モデルのW116から14%も削減され、Cd値も当 時としては良好な0.37となっているが、伝統のグリルはしっかり受け継がれ、ベンツのフラッグシップとしての威厳、気品は保たれていた。ただ、前後方向 の空力性能を優先したために横風に弱く、特に高速走行中はハンドルを取られる感覚に悩まされた。
車体側面下部もそり返してモールが突起しており、雨の中を走行しても車体側面が汚れないようして、乗車時に衣服が汚れないように配慮されていた。
ドア開閉のヒンジが大きく、受け部も巨大なピンでガッチリロックするタイプを採用。ドアを閉めると『ゴシャン』と言う独特の音がし「金庫」「戦車」「蒸気機関車」などと比喩された。
メッキモールが多く使用されており、窓枠、グリルなどには角度を持たせてある。これは自然光を拾いやすくすることで、遠くから見ても輝くように見せるため。
フロントの窓の両側にはAピラーに沿って雨樋(溝)が設けてあり、ワイパーを動かしても雨水等がサイドウインドーに飛んでかからないよう設計されている。後年、セルシオ(初代UCF10系)にも同様の構造が採用されている。
ワイパーもメルセデス初のフルコンシールドワイパーとなった。これはボンネット下に格納するタイプで、見た目もスッキリし、高速走行時(200Km/h-)ワイパーが浮かないで済むし空力的にも優れている。
天井の雨水が流れるようにリアウインドー周辺に溝を深く切ってあり、さらにトランク周辺内側の溝を通り、テールランプ上部にも溝があり、テールランプにかからないように、排出できる設計になっている。
最上級グレードの560SELとSECには、サンルーフが標準装備されている。(日本仕様のみ)
テールレンズは深く凸凹している。これは雨や雪道等の環境下や悪路を走行し、テールランプやウインカーレンズに雪・泥等が付着した場合でも、凸面 に汚れが付いて凹面は付着しないため、被視認性を確保できるためである。フロントのウインカーレンズにも同様のデザインが採用されている。
最上級グレード(500SEL、560SEL等)には標準でライトワイパー、ウォッシャーが装備された(それ以外のグレードではオプション扱 い)。雨天時や悪路走行の際、ヘッドライトに付着した泥を落とすためのもので、操作は灯火時に通常のワイパーウォッシャー操作(ウインカーレバーを押し込 む)に連動していた。なお、日本仕様のみの話だが、一部モデルにはこのヘッドライトワイパーのみをダミーとして設置するディーラーオプションも登場した。
T字型のダッシュボードは車体幅を運転者が見切れる設計で、外装がドア内張りの延長上に見え、運転者にとって把握しやすい角度にある。
V8エンジン搭載モデルには標準、300SEでは1989年モデルからパワーシートが標準装備(フロント席のみ)されている。560SELでは2 つまでポジションを記憶できるメモリー機構も採用されていた。スイッチ自体はドアノブの脇に配置され、前席は前後スライド、座面高さ、バックレスト角度、 ヘッドレスト位置などが無段階調整可能だった。椅子の形を模したスイッチ形状が採用された。
シートは基本フレームに金属スプリングを多用しサスペンション能力を持たせてある。馬の毛やココナッツ繊維等で覆われた多層構造を採用、表地はベロアで覆っている。
初期型のステアリングは大型(直径41cm)のものを採用している。パワーステアリングの故障があっても、大きな入力が可能な大径ステアリングならば操作できる。
後期型からは直径39cmの標準径に変更された。
上級グレードにはステアリングにエアーバッグが搭載されたが、日本仕様では1987年まで火薬類取締法に抵触し、オプションのリストにすら存在し なかった(同様に本国では標準装備されていたプリテンショナー・テンションリデューサー機能付シートベルトも日本仕様は外されていた)。これらの装備が認 可されるのは1987年になってからのことである。
助手席エアバッグが採用されたファイナルモデルの560SELの場合、助手席のグローブボックスのスペースにエアバッグユニットを収めたため、グ ローブボックスが無くなり、代わりにセンターコンソールからつながる、運転席アームレスト下のトレイに鍵つきのシャッターを備えた小物入れが設定された。
全てのエンジン、トランスミッション等が高度な設計で良い素材で精密かつ繊細に製造された。当時の国産車のようなハイテク(電子制御)を用いず、 創業以来の伝統的な機械的制御がされた。絶対的出力よりも低回転域のトルクを増強し、フィーリング的にも軽くなく、底力を感じさせる物であった。
ステアリング型式もボール&ナット方式を採用していた世代で、非常にコストをかけた作りでゆったりしたハンドル操作に対し、精密になめらかに稼動し、すばやい入力には、クイックに反応する。また、ステアリングダンパーが装備される。
サスペンションはロング版とショート版で異なり、国内向けのロング版は特に柔らかくセッテイングされる。また560SELには油圧式のセルフレベ リングサスペンションが装備された。ショート版が本国と同様の固めのセッテイングになっている。後輪にセミ・トレ方式が使用された最後の世代となった。
設計構想が国産車とまったく正反対で、すべての消耗部品を短期間で交換する事と、常に整備する事によりベストな状態で乗れるというの考えの為、あ らゆる交換部品の頻度がきわめて早く多いことにより、良い状態で乗り続けるには維持費が相当にかかる。逆に言えば基本的で本質的部分、車体等を堅牢に作っ ておけば、消耗部品を交換し整備を続ける限り、永年に渡り使用できると言う昔ながらの高級品、一級品らしい伝統的なメルセデスの作りとなっている。